2025/11/08 15:30
反保真優
言葉が国によって違うように、手話も国ごとで違うという。15日から日本で初開催される「デフリンピック東京大会」には、海外からたくさんの聴覚障害者がやってくる。いったいどうやってコミュニケーションするのか、手話の世界をのぞいてみた。(デジタル編集部 反保真優)
「ありがとう」日本は相撲の手刀、アメリカは投げキッス
「友達、アミーゴは肩を組むような仕草で表します」

同時に各国の数字の表し方を披露する講師ら
6月、東京都港区にある日本財団ボランティアセンターの会議室で、元デフビーチバレー選手で留学経験もある平井望さん(41)が、ロシアの手話について説明していた。
開かれていたのは同センターが企画した、海外の手話などを学ぶ「国際手話道場」。この日は、デフリンピックでボランティアに参加する人ら約40人が、タイやコロンビアなど地域ごとの講師たちによる各国・地域の手話の紹介に、熱心に耳を傾けていた。

各国・地域の手話に挑戦する参加者ら
国によって異なる手話は、文化や歴史的背景が大きくかかわっている。例えば、「ありがとう」の日本手話は、勝った力士が手刀を切る様子が基になっている。
一方、アメリカでは口元から投げキッスをする動作を表す。また、台湾と日本では数字の数え方が似ており、「楽しい」などの手話も同じように表現する。これは日本が昔、台湾を統治していた名残と考えられるという。
会議などで使われるうちに広まった「国際手話」
実は、世界ろうあ連盟の会合やデフスポーツの国際大会などでは、公用語のような「国際手話(International Sign)」が用いられている。ただし、国際手話は民族や一緒に生活する人が集まって自然と発生した「言語」とは異なり、「人工言語」と表現されることが多い。

国際手話道場で講師を務める長谷川さん(左)と西脇さん
全日本ろうあ連盟によると、150年ほど前から世界ろう者会議などの演説の場で、役員らが自国の手話や誰もが見てわかりやすい表現を繰り返し用いていく中で形成されていったという。
大きな特徴は、様々な国の表現を尊重して、少しずつ手話を取り入れていることだ。日本からは卒業式などでかぶる角帽をイメージした「大学」の手話が国際手話に取り入れられた。紙の辞書やマニュアルがあるわけではなく、使われる内に浸透し、日々新しい表現が出てきたり、変化していったりする面白さもあるという。
国境の壁が薄く平等
国際手話講座で講師を務めた手話表現者の西脇将伍(25)さんは「国際手話のすばらしさは公平で平等なコミュニケーションであるところ」と語る。音声言語では、英語が共通語という認識が強いが、国際手話はいろんな国の手話からできている。
また、英語と日本語で文法が違うように、各地の手話も語順が異なることがあるが、自国の手話や知っている手話、さらに視覚的なジェスチャーを駆使しながら、少しずつお互いに通じ合えるようになるという。「気付けば自然に意思疎通ができて、聴者の言語よりも国境の壁が薄い。それが国際手話の醍醐味」と教えてくれた。欧米に比べてこれまで国際交流の機会が少なかった日本では、国際手話を使いこなせる人材は日本手話を使う人のわずか1%ほどと推定されるという。全日本ろうあ連盟の嶋本恭規理事は「デフリンピックをきっかけに、交流する場が増えて国際手話ができる人が増えたらいいな」と期待する。
近年は日本に移住する外国人も増えてきており、情報を行き渡らせて暮らしやすい社会を作るためにも国際手話の普及が欠かせないという。
国際手話がわからなくても
一方で、国際手話ができなくても、海外の人たちとコミュニケーションをとる方法はたくさんある。国際手話講座で講師を務め、ろう俳優や漫才師としても活躍している長谷川翔平さん(31)は「手話がわからなくても、まずは目を見て挨拶してみて」と呼びかける。
「こんにちは」の正式な手話も存在するが、聴者と同じように手を挙げて「よっ」という仕草をしたり手を振ったりするしぐさが一般的だ。ほかにも視覚的に身振りや手振りで単語を表現してみたり、絵をかいてみたり。「O」と「K」を指文字で表したり、親指を上にたてる「グーポーズ」をしたりすると「良い意味」が伝わりやすい。
長谷川さんは「とにかくアクションを起こしてもらえたら、聞き方、伝え方のコツを徐々につかんでスムーズにコミュニケーションをとれるようになる。まずは積極的に話しかけてみて」とほほえんだ。
デフリンピックが国際交流のきっかけに
恥ずかしながら、国や地域によって手話が異なることをきちんと理解していなかった。「食べる」という動詞一つをとっても、お箸で食べるしぐさをする日本手話と、パンをかじるような様子を表す欧米の手話は違う。視覚的にもわかりやすく、私たちもすぐまねできるのでは?と思った。国ごとに手話が異なるように、国内でも方言があるという。手話の奥深さをもっと知っていきたい。
近年はデジタルツールが発達し、世界との距離がぐっと縮まった。いつ、どこでも気軽に世界中の人と連絡を取ることができる。デフリンピックで知り合った人たちが、その後もオンライン動画で交流を深めたり、友人のその国を訪れたときに案内してもらったり。大会が交流の芽となり、大きく育っていくことを願っている。
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