野口憲太
2025年3月9日 13時00分

写真・図版
耳の構造と補聴器・人工内耳
耳は、音を集めて鼓膜に伝える「外耳」▽音を増幅する「中耳」▽音を電気信号にして脳へ送る「内耳」で成り立つ。このどこかが生まれつき十分に機能せず、聞こえにくい状態が「先天性難聴」だ。海外の報告から、1千人に1~2人の割合とされるが、国内での詳細な調査はなかった。
信州大のチームが2024年に発表した論文では、2009~19年に長野県内の新生児約15万人を調べた結果、先天性難聴の割合は1千人に1.62人で、両耳に難聴がある子と片耳だけの子は約半数ずつだった。出生時に両耳が難聴の子では、遺伝子に原因がある場合が約56%と最も多く、片耳だけの子では耳と脳をつなぐ神経が細いなど神経の形成不全が約40%と最多だった。難聴につながることが知られているサイトメガロウイルス感染が原因だったのは、いずれも4~5%だった。
吉村豪兼(よしむらひでかね)・信州大学病院耳鼻咽喉(いんこう)科頭頸部(とうけいぶ)外科講師(43)は「研究期間内では、長野県内で確定診断を実施していたのは信州大だけで、10年間ほぼ漏れのないデータになっている。一つの県の結果ではあるが、全国規模でも大きな違いがあるものではないと考えられる」と話す。
近年、遺伝子検査や画像検査など検査技術も進歩している。吉村さんは、「同じ『難聴』でも背景はさまざま。早期治療のため、原因を突き止めることがより重要になってきている」と話す。
新生児の聴覚検査が普及
日本では00年代になって以降、新生児の聴覚スクリーニング検査が全国に普及。先天性難聴に早く気づけるようになった。それ以前は、言葉の遅れなどで2~3歳ごろにわかることが多く、幼少期の聞こえの経験が不十分なことで言語の獲得に壁があることが課題だった。
難聴に詳しい東京医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野の西山信宏(にしやまのぶひろ)・臨床准教授(55)によると、補聴器や人工内耳など聞こえを助ける機器も、医学的に効果が見込めれば早期から使えるようになり、言語能力を伸ばしやすくなったという。
ただ、難聴ではない子とまったく同じ聞こえ方ではない。小さい音や遠くの音、ざわざわした環境などでは音が聞き取りにくい。学年があがるにつれて困難さをかかえることもあるという。
就労後は、他人とのコミュニケーションがより幅広く必要になり、責任も伴う。一方で、患者自身も何に困っているかを十分に説明できず、努力不足だと自分を責めてしまう傾向もあるという。
難聴の程度や言語能力は一人一人異なるため、西山さんは、「患者さん自身が何に困るかを具体的に把握して、必要な支援とそうでない支援を周囲に伝えられる『セルフ・アドボカシー』のスキルを鍛えることが必要になっている」と話した。
耳が聞こえる人の側も、はっきりゆっくり話すことを意識するなど、難聴のある人への配慮を忘れないことが求められるという。
西山さんは、「周囲の人も、難聴の方とともに時間をすごすことが初めての場合もあるだろう。近年は、補聴器や人工内耳に、ブルートゥース(無線通信)で音声を直接とばせる機能がついていたり、音声を即座に文字におこすアプリがあったりと、聴覚のサポートも使いやすくなっている。様々な機器を活用しながら、難聴のない人も難聴がある人たちとともに仕事をしたり生活したりする経験がもっと増えていくことが大事です」。
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