聞こえの基礎知識【社会人編】補聴器/人工内耳を使用 または 過去に補聴器を使用の方

相手の声が聞き取れず職場でのコミュニケーションに困ることはありませんか?

このページは、職場でのコミュニケーションに困っている方向けのページです。

「聞こえないことを分かってほしい」「聞き直しを躊躇してしまう」「配慮してほしい」など、補聴器や人工内耳を使っている方が抱える職場での聞こえの悩みを解決し、少しでも楽しく充実した日々の生活を送れるよう、さまざまな情報をお届けしています。

少しお時間をいただきこのページを読んでいただくことで、みなさんが持っている疑問や不安を解消できたらとても嬉しいです。

補聴器の聞こえに満足できない理由

「補聴器を使っていても、職場でのコミュニケーションが難しい」、「使っている補聴器の聞こえに満足できない」という方は意外と少なくはありません。

なぜでしょうか?

理由は大きく分けて3つあります。

理由その①補聴機器が聴力に合っていない

補聴器には軽度の難聴向けから重度の難聴向けなど、補聴器から出る音の大きさにより複数の種類があります。

当然軽度難聴用の補聴器では高度難聴、重度難聴には対応できません(逆も然りです)ので、使っている補聴器が聴力に合わない場合は満足した聞こえを得ることはできません。

また、聴力は年齢とともに徐々に低下していきますので、昔買った補聴器が現在の聴力に合わなくなっていることはあり得ることです。

補聴器が聴力に合っているかを確認するためには、聴力測定が必要です。
正確な測定結果を得るためにも、聴力測定は測定機器や防音設備や整った耳鼻科医院や補聴器専門店で測定することが必要です。

理由その②補聴器の調整が正しくされていない

効果測定

補聴器が適正に調整されているか確認をするには、補聴器を着けている本人による主観的評価も大切ですが、測定機器を使った客観的評価『効果測定』がとても重要となります。

この効果測定はスピーカーから出る音で2つの測定を行います。


音場閾値測定(おんじょういきちそくてい)
補聴器をつけていない状態での聞こえと補聴器をつけた状態での聞こえを測定し、『音の聞こえの効果』を客観的に測定します。

”ピロロ、ピロロ”という音が僅かでも聞こえた時に応答ボタンを押して記録します。

音場語音測定(おんじょうごおんそくてい)
こちらは、”あ”、”え”といった単音節という言葉を聞き、その正解率を(%)で表す測定で、『言葉のきこえ方の効果』を客観的に測定します。

こちらも補聴器をつけていない状態での聞こえと補聴器をつけた状態での聞こえを測定します。

言葉の聞き取り検査を行うことで、言葉を聞き分ける限界を把握したうえで、補聴器をつけたときにどれくらいの音量に設定すると一番聞こえがよくなるかを判断することができます。

補聴器の音に慣れないとうるさいと感じたり、よく聞こえないと感じたりすることがありますので、きめ細かく効果測定をしながら調整をして、納得できる聞こえに近づけていきます。

理由その③補聴器の限界

補聴器には限界があることをご存じでしょうか?

聞こえを補ってくれる補聴器ですが、難聴の程度によって、また、言葉の聞きとり能力の程度によっても、補聴器の効果は異なります。

補聴器の限界を知っておくことで、より効果的な使い方が可能になります。

補聴器の限界その①距離

補聴器の限界その1距離

面と向かって話している相手の声はよく聞こえても、話し相手が離れれば、離れるほど、相手の声が小さくなり聞き取りにくくなりますよね。

音は距離によって減衰するため、離れた相手の声を聞くことは補聴器を使っても難しくなります。

一般的に補聴器で十分に言葉を聞き取れる相手との距離は1.5mが限界と言われています。

補聴器の限界②騒音

補聴器の限界2騒音

補聴器はマイクロホンで相手の声を拾いますが、騒がしい場所では騒音も一緒に集音してしまいます。

騒音を抑制し言葉を聞き取りやすくする機能がついている補聴器もありますが、その効果は高価な器種に限られていたり、機能が付いていても騒音の大きさによっては限界があったりします。

補聴器をつけていても、つけていなくても騒がしい環境での言葉の聞き取りは難しいと考えてください。

補聴器の限界③複数人との会話

補聴器の限界3複数人との会話

複数人との会話が難しいと感じたことはありませんか?

補聴器にはマイクロホンに騒音が入るのを防ぎ、話し相手の声をしっかりと集音するために、指向性マイクロホンと言って話し相手の方向の音をより大きく集音する機能がついている機種が多くあります。

話し相手が複数人の場合、この指向性の機能のために顔を向けていない方向の人の声が聞き取りにくくなることがあります。

聞き取りにくい環境を確認する

解決策を探す上でもう一つ大切なのは、どの様な環境で聞き取りにくさを感じるのかを知ることです。

例えば、

  • 会議などで離れた席の人の発言が聞き取りにくい
  • 周りが騒がしく相手の話が聞き取りにくい
  • 天井が高い部屋で声が響いて聞き取りにくい
  • 複数人との会話が聞き取りにくい
  • リモート会議でシステムを通した声が聞き取りにくい
  • 車を運転している時に、後ろの座席の人の話が聞き取りにくい

聞き取りにくい理由が、話し手との距離なのか、騒音や反響音の影響なのか、また複数人との会話が難しいのかなどを把握します。

解決方法を検討する

聞き取りの改善にはさまざまな解決方法があり、聴力と聞こえにくい環境の2つの情報から、自分に合った解決方法を選ぶことができます。

聞こえは補聴器をつけて改善することが一般的ですが、その人の聴力やその日の体調、また騒がしい場所での聞き取りなど、補聴器だけでは聞きたい声を十分に聞き取ることが難しい場合があります。

補聴援助システム

そんな時に補聴器と合わせて使用することで言葉の聞き取りを向上させるのが補聴援助システムです。

補聴援助システムは、補聴器の限界である①距離②騒音③複数人との会話を克服するために開発されたシステムで、補聴器だけの聞こえを大きく改善してくれます。

補聴援助システム

例えば、カルチャースクールでのヨガ教室やお料理教室、英会話学校など、「講師の先生の声をより良く聞きたい!」、「大勢の集まりの中で聞き取りにくい!」といった場面で使用したり、役所や郵便局などの窓口で使用したりすることで「周囲の騒音」と「話し相手との距離」を克服することができます。

また聴覚情報と合わせて視覚的に情報をとることができるとコミュニケーションが楽になります。

視覚的に情報を入手する手段としては、筆談もありますし、また音声を文字化してくれる便利なアプリもあります。

特に実用的で多くの導入事例がある「UDトーク」は、会議や打合せはもちろん、リモート会議のシステムを通した声が聞き取りにくいという方にも、リアルタイムで音声を文字にして表示することができるので、聴覚と視覚の情報を同時に入手でき、聞き取りを大きくサポートしてくれます。

職場での聞こえの配慮を求める

職場で聞き取りにくいことがある方は、周りの人たちに聞こえの配慮を求めることも、大きな解決策の一つです。

例えば、

  • 聞き取りにくいことを伝えて、筆談も併用してもらう
  • 顔を向けて口が見えるように話してもらう
  • 後ろから声を掛けるときは肩をたたいてもらう
  • 会議や打ち合わせの時には事前に資料をもらう
  • 会議や打ち合わせでは議事録を作成し、終了後に議事録をもらう
  • 口の動きが見える透明なマスクを使用してもらう
  • 補聴援助システムや音声文字化アプリなどの支援機器を準備してもらう

上記は一例ですが、このような配慮をしてもらうことで、大事な話を聞き漏らしたり、聞き間違えしたりすることを減らすことができます。

配慮を求めるのはちょっと...という方もいるかもしれませんが、国内外でこういった配慮を後押しする動きが2つあります。

合理的配慮

合理的配慮

ひとつ目は障害者差別解消による合理的配慮です。

平成25年6月に制定された障害者差別解消法では、国や自治体、会社やお店などの事業者が、障害のある人に対して正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止し、また障害のある人から社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること「合理的配慮」の提供が国や自治体は法的義務、民間企業・事業者は努力義務とされており、第204回通常国会において改正障害者差別解消法が成立し、公布から3年以内に民間企業・事業者も法的義務化されることになりました。

ダイバーシティ&インクルージョン

インクルージョン

ふたつ目は、ダイバーシティ&インクルージョンです。

ダイバーシティは多様性を意味します。性別、年齢、国籍、宗教、障がいの有無にかかわらず、それぞれの個を尊重し、認め合いましょうという考えで、職場では多様な人材を組織に受け入れることを目指したり、人が本来持つそれぞれの違いを受け入れることを目指したりします。

インクルージョンは受容を意味します。組織内の多様な人材に活躍してもらうため、それぞれの違いをより活かすことを目指したり、障壁を取り除いたりする取組みを行ったりします。

ESGやSDGsなど企業の社会的責任が問われる中、人権の尊重やダイバーシティ&インクルージョンの促進は、企業が持続的に成長し続けるために不可欠な要素となってきていると言われており、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する企業が増えてきています。

<聞こえのコラム>
『補聴器と医療費控除』

補聴器を購入することは決して安い買い物ではありませんよね。

平成30年度から補聴器購入に際し、医療費控除を受けられるようになりました。

<一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会 HPより>
補聴器の装用と活用は、WHOのキャンペーンに「難聴」が取り上げられ、さらには難聴と認知症の関係のエビデンスが蓄積されつつある現在、日耳鼻として推進すべき社会貢献の中でも喫緊の課題の一つです。

超高齢社会を迎え、身体障がい者に限らず広く補聴器を活用することは重要でありますが、補聴器は高額な医療機器であり、装用者、購入者にとって大きな負担となっています。

平成30年度から、「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」の活用により、医療費控除を受けられることが、厚生労働省、財務省によって承認されました。

「医療費控除について」を読む

補足情報

聞こえの仕組み
「耳のキホン」 聞こえの仕組み
「聞こえないこと」

よくある質問

会議で離れた席の人の声が聞きとりにくく重要な内容を聞き漏らしているのではと心配になります。何か解決策はありますか?

補聴器だけでの聞こえには限界がありますので、補聴器と合わせて補聴援助システムを使うことをお勧めします。

補聴援助システムを使うことで距離、騒音、反響音を克服することができ、会議や打ち合わせなどで聞き漏らしを減らすことができます。

<参考>
『知っておきたい聞こえの豆知識』
『セルフアドボカシー』って何?
補聴援助システム『ロジャー』とは?

休憩時間やランチの時に雑談に入っても話が聞き取れないため、グループに入れずにいます。グループに入らないことを快く思われていないのではないかと心配になるのですが解決方法はありますか?

補聴器と合わせて補聴援助システムを使うことで、補聴器だけの聞こえより改善することができますが、複数の人が同時に話す場面や、騒音が大きい場所ではすべての会話をしっかりと聞き取ることは難しいかもしれません。

聞こえにくいことを伝えて、できる限り一人ずつ話をしてもらうなどの配慮を求めることも必要かもしれません。

聞こえなくても雰囲気だけでいいのでグループに入る方や、割り切って一人の時間を楽しむ方、また関係を大切にしたい人とは定期的に1対1での食事に誘い静かな場所で食事をするなど工夫をされている方もいらっしゃいます。

<参考>
『知っておきたい聞こえの豆知識』
『セルフアドボカシー』って何?
補聴援助システム『ロジャー』とは?

補聴器を着けているのですが、電話をする時に補聴器からピーという音が出てしまうため電話ができません。何か解決策はありますか?

無線で補聴器と携帯電話がつながり、携帯電話を耳に当てなくても通話ができる器種があります。

また、補聴援助システムを使うことで携帯電話からの相手の声を補聴器にワイヤレスで届けることも可能です。

障害者差別解消法の合理的配慮で会社に補聴援助システムや音声文字化アプリなどの支援機器を準備してもらうことはできますか?

民間企業・事業者の合理的配慮の提供は2021年6月時点では努力義務(公布日2021年6月4日から3年以内に義務化されます。)となっており会社ごとに対応が異なると思われますが、合理的配慮として補聴援助システムや音声文字化アプリなどの支援機器を会社側が準備してくれる事例は多数あります。

<参考>
『知っておきたい聞こえの豆知識』
『セルフアドボカシー』って何?
補聴援助システム『ロジャー』とは?

ロジャーの申請が通りません。どう説得すればよいでしょうか?

お使いの補聴器が重度用耳かけ型補聴器で受信機、オーディオシュー、ワイヤレスマイクを必要とする場合、補聴器と同じように「補装具申請」が可能です。

お使いの補聴器が重度用耳かけ型補聴器以外の場合は、「特例補装具申請」という申請を行います。

補装具でも特例補装具でも『真に必要な理由』が必要とされているので次のような理由を強く訴える必要があります。

・仕事上必要(ロジャーがないと業務が制限される)

・会議や打ち合わせなどは、ロジャーがないと離れた位置にいる人の話を聞き取ることができない

成人の場合、「あった方がより助かる」程度の理由だと申請は通りませんので、本当に困っていることを強く訴えてください。

<参考>
『『知っておきたい聞こえの豆知識』』
補聴援助システム『ロジャー』の福祉申請手順は?


『お役立ち資料』
・ロジャーの申請方法【社会人編】

職場でロジャーを使ってもらえません。どう説得すればよいでしょうか?

平成25年6月に制定された「障害者差別解消法」では、国や自治体、会社やお店などの事業者が、障害のある人に対して正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止し、また障害のある人から社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること「合理的配慮」の提供が国や自治体は法的義務、民間企業・事業者は努力義務とされており、第204回通常国会において改正障害者差別解消法が成立し、公布から3年以内に民間企業・事業者も法的義務化されることになりました。

この「障害者差別解消法」のことを説明し、「合理的配慮」を求めるのがよいかと思います。

<参考>
『お役立ち資料』
職場でロジャーを使ってもらう時の説明資料

『知っておきたい聞こえの豆知識』 
『セルフアドボカシー』って何?

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