2025/10/3 11:10
黒川 信雄

手話を交えて遊びが行われるこめっこの活動=8月、大阪市
聴覚障害がある子供に乳幼児期から手話を学ぶ機会の提供を国や自治体に求める「手話施策推進法」が6月に施行された。策定の過程でモデルとなったのがNPO法人「手話言語獲得習得支援研究機構(通称・こめっこ)」(大阪市東成区)だ。11月には聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」が東京で開催されるなど、手話に対する関心の高まりが期待されており、こめっこの取り組みにも注目が集まっている。
参院法制局が訪問して参考
「今月お誕生日の子がいるよ! 笑顔で楽しく遊ぼう」
スタッフが大きな身ぶりを交えた手話で呼びかけると、幼児らがうれしそうな表情を浮かべた。手話による絵本やゲームが行われた後は、保護者を対象にした手話の勉強会や交流会が行われた。
これは8月に行われたこめっこでの活動のひとこまだ。大阪府は同じ建物内で府内の自治体関係者を対象に難聴児への早期支援についてのセミナーを開催しており、参加者の多くがこめっこの活動も視察した。

手話施策推進法では、手話を「重要な意思疎通のための手段」と位置づけ、国や自治体に対して手話の習得や使用についての必要な環境を整備し、手話を必要とする子供への習得支援を求めた。議員立法だったが、法案策定の際に参院法制局が実際に訪問して参考にしたのがこめっこだった。
人格形成に深刻な影響
こめっこは平成29年3月、大阪府で手話の習得機会確保などに関する条例が施行されたことを受け、大阪聴力障害者協会などが支援事業の一環として活動をスタート。令和2年2月にNPOを発足させた。
こめっこの最大の特徴は、0歳児から手話を習得できるプログラムを展開していることだ。現在は複数の年齢層を対象に手話習得支援を行っており、保護者向けの学習会や相談会もある。約90人ほどの子供と保護者が利用している。
こめっこのスーパーバイザーを務める神戸大の河﨑佳子教授は「重度難聴児は人工内耳をつける手術を受けても健聴者と同じように聞こえないのが実情。人工内耳が適合しない子供もいる。そのような状況は学習能力や人格形成に深刻な影響を与えかねない。だからこそ、乳幼児期から手話を習得して育つ環境が重要だ」と語る。
自治体にノウハウ少なく…
法律の施行によって、今後は他の自治体でも同様の事業を推進する動きが広がる見通しだ。
ただ難しさもある。各自治体ではまだノウハウが少なく、施設などを設立しても運営を支えるのは容易ではない。一方で、施設数が少なければ子供や保護者が長距離を移動しなければならず、きめ細かなサポートにつながらない。
そのためこめっこでは、動画の配信や自治体へのノウハウ提供などのサポートを検討している。河﨑氏は「手話の普及拡大に向けて、可能な限りのことをしていきたい」と意気込んでいる。(黒川信雄)
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