2025.11.03
撮影・安田光優 イラストレーション・イオクサツキ 文・堀越和幸 構成・堀越和幸
何となく不具合を感じても年のせい? とやり過ごしてしまいがちな耳。けれども、今からきちんと向き合えば、もっと長持ちするのです!
徐々に落ち始めた聴力は、放っておけば難聴に
年齢を重ねると耳が聴こえづらくなる女性は案外多い。
「代表的なのは加齢性難聴というトラブルですが、やっかいなのは自分では気づきづらいということです」
そう語るのは「大森耳鼻咽喉科」院長の八島隆敏さんだ。徐々に進むので自覚症状がない。“私は聴こえてます”と言い張る人でも測ってみると、かなり難聴が進んでいたという場合がある。
「聴力検査&耳年齢テスト」125ヘルツから8000ヘルツまでの聴力を自宅で検査するアプリ。右耳と左耳の結果をグラフで表示。“耳年齢”も調べることができる
「放っておくと悪化して人間関係や社会生活などにも影響しますので、不安を感じる人は、一度耳鼻科を受診することをおすすめします」
下に挙げたリストで一つでも心当たりのある人は、自分の難聴を疑ってみよう。さらに──、
「最近はスマホのアプリなどで簡易的に自分の聴力が調べられるものがあるので、利用してみるのもいいです。もし少しでも難聴という結果が出たら耳鼻科でちゃんと検査をしましょう」
思い当たる項目をチェックしてみよう
□家族にテレビの音が大きいと言われたことがある。
□会話中に聴き返すことが多い。
□自分の話し声が大きいと言われることがある。
□病院などで名前を呼ばれても気づかないことがある。
□ガヤガヤした場所で会話をするとよく聴こえない。
□女性の声や小さな子どもの声が聴き取りにくい。
□体温計や家電製品のピピッという電子音が聴き取りにくい。
□小雨が降る音がよく聴こえない。
□ビールや炭酸のシュワーッという泡の音が聴こえない。
□蚊のプーンという羽音が聴こえない。
出典:『聴力リセット』八島隆敏
Q1 そもそも「聴こえる」とはどんなメカニズムですか?
普段、私たちは音をどのように感知しているのだろう?
「音は正確にいうと空気の振動ですが、この振動は耳によって集められ脳に伝えられることで初めて“聴こえる”、と感知します」(八島さん)。
下のイラストを見てみよう。外耳を通って鼓膜に伝わった振動は、3つの耳小骨(じしょうこつ)を経て大きく増幅され、カタツムリの殻のような形状の蝸牛(かぎゅう)に伝わる。その蝸牛の中はリンパ液で満たされていて、そのリンパ液が揺れると蝸牛の中にある有毛細胞が揺れを感知して電気信号に変換される。その信号が脳に届いて、初めて“聴こえる”となるわけだ。
「加齢で聴こえづらくなるのは、この有毛細胞が減ったり壊れたりするからです。特に高音を捉える有毛細胞から劣化するケースが多いです」

Q2 今の40〜50代女性が気をつけるべき耳のトラブルは何ですか?
難聴は加齢によるものばかりではない。近年気をつけなければいけないのは“スマホ難聴”とも呼ばれる、耳年齢テストだ。
「騒音性難聴は2つに大別されて、ひとつは1回の爆音を聴いて耳が聴こえづらくなるもの、もうひとつは長時間の騒音にさらされることで耳が聴こえづらくなるものがあります」。
1回の爆音とは、例えば、ガスの爆発音、飛行機のエンジン音、ロックコンサートの音などで、長時間の騒音とは工場や建設現場などの音やヘッドホンを使用した大音量での音楽鑑賞などが挙げられる。
「単発的な爆音や騒音の暴露なら治る人も多いのですが、長年蓄積している人は有毛細胞がダメージを受けて、徐々に難聴を進行させることになります」。
それにと、八島さんは付け加える。「今の40〜50代女性は、若い頃からヘッドホンステレオに馴染んだ世代でもあるので、これから年を重ねるにあたってより注意が必要かもしれません」

通勤電車では電車の騒音で音量を上げがちに。ノイズキャンセリングのイヤホンなどを利用しよう
Q3 ⽿垢が溜まって聴こえが悪くなることはありますか?
問いに対する答えは、イエス。実際に八島さんの病院に来院した“聴こえないので、突発性難聴かもしれません”という患者さんの耳を診てみると、耳垢で詰まっていたことがあった。
「耳掃除はやらなくてもよくありませんし、やり過ぎてもよくありません。耳垢は本来は、お風呂上がりなどの湿った状態で時々綿棒で軽く入り口を掃除すれば充分に取れます」。
それをやり過ぎてしまうと逆に耳垢を穴の奥に押し込んでしまうことになる。そうなると──。
「“耳垢栓塞(じこうせんそく)”という耳垢が詰まって聴こえが悪くなる場合があります。そういう場合は専門の機械で取ることになります」。自分で無理をしないで、気になる時は耳鼻科で除去してもらおう。

耳垢は乾性や湿性などのタイプによって除去の方法も異なる。耳が詰まる感じは耳垢のほかに難聴のこともあるので、悩まずに耳鼻科で診てもらおう
Q4 時々⽿鳴りがしますが、放っておいても⼤丈夫でしょうか?
ふと耳の中で「ジー」「ピー」と鳴り始めて、やがて消え去っていく耳鳴りは、誰にも経験があるはず。そもそも耳鳴りとは何なのか?
「実はそのメカニズムははっきりわかっていません。音が聴こえる仕組みの部分で触れたように耳に入った音は電気信号となって脳に伝えられますが、音を電気信号に変換する内耳の部分から脳に至る神経のいずれかの不具合により、ジー、ピーなどの耳鳴りが起こるともいわれています」。
頻回に起きたり、長く鳴ったりする時は放っておかないこと。
「特に難聴を伴う耳鳴りという症状があるので、気になる人はぜひ耳鼻科に行くべきです。放っておくと不眠やうつに発展することもあります」
Q5 疲れた⽿の労り⽅を教えてください
そもそもが、耳だってちゃんと休ませてあげなければいけない、という当たり前の事実に目を向けよう。
「その昔、自然の中で暮らしていた頃の人類は、むしろ音がない環境のほうが多かったと思います。でも、現代の人々は驚くほど雑多な音に取り囲まれていて、耳は疲れています」。1日10分でもいいから耳を休ませよう、というのが八島さんの提案だ。
その具体的方法は、「耳栓でもいいし、ノイズキャンセリングのヘッドホンをして何も音を流さない、という無音の状態で耳をリラックスさせるのもおすすめです」。
一方、音を流しながら休ませるという方法もある。「小川のせせらぎや、波や雨の自然の音を小さな音で聴くのもいいでしょう。脳がリラックスするからです」。
日頃からの注意事項としては、「とにかく大音量で音楽を聴いたりしないこと。そのためにも、ノイズキャンセリング機能がついているヘッドホンやイヤホンがやっぱり有効的です」
Q6 聴こえづらい状態を放っておくとどうなりますか?
相手の話がわからないと「え?」と聴き返す。最初はいいが、だんだんお互いが気まずくなる。するとなるべく話さないようにしたり、何でも生返事をするようになったり……。
「会話をするのが次第に億劫になって、人とのコミュニケーションが減ってしまい、結果、うつ病や認知症につながるケースは少なくありません」。
難聴がそのまま、即認知症というわけではない。が、認知症の重要な危険因子に数えられていることは世界的な事実だ。仮に難聴が進んでしまったら、八島さんは“メガネをかけるように補聴器をつけましょう”という提唱をしている。
「かつてアメリカのクリントン大統領が執務中に補聴器をつけて仕事をしている姿が話題になりました。海外ではメガネのように当たり前。話が聴こえるようになると、人は明るさを取り戻せます」

聴いて話すことは人にとっての大切なコミュニケーション能力。そのためにもきちんと自分の聴力を調べた上で、補聴器を取り入れよう
八島隆敏 さん (やしま・たかとし)
大森耳鼻咽喉科院長
これまでに20万人以上を診てきた耳のプロ。東京科学大学耳鼻咽喉科では臨床教授も務める。著書に『聴力リセット』がある。
リンク先はクロワッサンオンラインというサイトの記事になります。
