ABEMA Prime
2025/02/16 11:00

五感で得られる情報を、苦痛に感じる「感覚過敏」の人がいる。加藤路瑛(じえい)さん(18)は、幼いころから「視覚の過敏さは弱いが、聴覚・嗅覚・味覚・触覚が過敏」といい、外出するだけで過度な刺激を浴び続けることになる。
加藤さんに限らず、発達障害の症状として感覚過敏を訴える人も多いが、見た目には全く解らず、なかなか理解してもらえない現実がある。生きづらさを知ってほしいと、13歳の時に「感覚過敏研究所」を設立した加藤さんに、『ABEMA Prime』は話を聞いた。
■全国に1000万人いるとも…「感覚過敏」とは
推定患者数は1000万人におよぶ、“感覚過敏”とは何なのか。高知大学医学部の高橋秀俊特任教授が監修した説明によると、「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などのどれか、または複数が過敏で日常生活に困難がある状態」を指す。先天的なものは、自閉スペクトラム症(ASD)等の発達障害に多いとされる。また、後天的に脳卒中・認知症・てんかん・うつ病等でも起こりうる。
加藤さんの感覚過敏は、学生時代にあらゆる苦痛を与えた。制服がサンドペーパーに感じ、靴下が極端に嫌になる。授業中は筆記音で集中できず、給食は食べられるものがない。休み時間は生徒の声が反響し頭痛が起こり、ベランダも川のにおいが苦痛で逃げ場がない。宿泊行事も、何も食べられず途中離脱となった。
幼少期から「“感覚過敏”という言葉は、私も親も知らなかった。小さく産まれ、かつ2月の早生まれで『できないのは当たり前』という環境で育った。周囲よりできることが少ないとは感じていたが、自分では『できないことが多い、わがままな子なのかな』と思っていた」と振り返る。
小学校で一番つらかったのは給食だという。「学校では絶対に一口食べないといけないルールがある。臭いも強いが、食べないと友達から『なんで食べないの』と言われる。身体的ストレスや、食べられないつらさがあった」。
当時は「みんな我慢している」と思っていたが、中学1年で“感覚過敏”の存在を知った。「教室の音環境が苦手で、保健室に通っていた。先生に相談すると、『聴覚過敏ではないか』と言われた。それまでは『苦手なことが多い』と認識していた」と語る。
加藤さんの母は、感覚過敏がある子がいる親ゆえの後悔を明かす。幼少期、食事で作った料理の野菜を小さくしたり、キャラ弁にしたり、工夫しても食べてくれなかった。当時は感覚過敏を知らず、わがままだと思って大激怒し、今でも後悔しているという。感覚過敏を知った時は、少し気持ちが楽になったそうだ。
■感覚過敏はなぜ起こる?
感覚過敏はなぜ起こるのか。高橋氏によると、仮説は様々ある。自閉スペクトラム症による感覚過敏の場合、光・音・におい・味・感触の信号を感知した時に、1つ目の仮説としては「扁桃体が過剰に反応し、びっくりしたと脳が感じ過敏になる」というもの。もうひとつは、「通常では反応しない脳の部分が反応し過敏になり、扁桃体と大脳皮質をつなぐ神経が独特に発達する」という仮説だ。
高橋氏によると、「それほど刺激が強くなければ、生活に困難さを抱えない人もいる。また、自分から、感覚過敏であることを表に出さない人も多いため、当事者の声が届きにくくなっている」そうだ。
感覚過敏の苦痛は、人それぞれだ。視覚では「太陽光で体調悪化」「画面の光が目に刺さって痛い」、聴覚では「生活音に耐えられない」、嗅覚では「においを避けて生活するので外出困難」、味覚では「学校給食の時間が怖い」、触覚では「衣服が痛い 人に触れられたくない シャワーが不快」などの体感がある。
■加藤さん「誰かの快適さを求めると誰かが不快に感じる世の中でどう寄り添えるか」
加藤さんは「自分にとって快適な服を作りたい」との思いから、自らアパレルブランドを立ち上げた。「市販品は生地や縫い目、首元のタグが痛くて着られないため、縫い目を外側にして、タグのない服を開発している」と説明する。
部屋では間接照明、外出時はノイズキャンセリングのイヤホンを着用し、「臭いで体調が悪くなることも多いため、活性炭のマスクを使っている」。学校と相談して、制服の代わりに、加藤さんがデザインしたパーカーを着て登校できるようになったとの声もあるという。また、感覚過敏でない人からも「新幹線や飛行機で長距離移動する人から、『パジャマみたいで着心地が良い』との声をもらう」そうだ。
感覚は人それぞれだ。「感覚過敏の人に限らず、みんな違う。だからこそ『認めて』『配慮して』ではなく、それぞれの違いを認め合えたら良いと考えている。私が『音が苦手だから全世界の音をなくして』と言ってしまえば、音を頼りにする人は困る。誰かの快適さを求めると、誰かが不快になる世の中で、どう寄り添えるかを考える必要がある」。
“感覚過敏”の名称については、「感覚はグラデーションだが、刺激によって体調不良やパニックになるなどの身体的反応があれば、解決策を考えないといけない。いまは課題解決のために“感覚過敏”の言葉を使っているが、互いに困りごとを表現して、認め合えるようになれば、使う必要もなくなる。つらさを話しやすい関係性が重要だ。相談する側は『相手に迷惑をかけないか』を気にする。まずは『迷惑じゃないよ。伝えていいよ』という言葉から伝えて欲しい」との思いを語った。
(『ABEMA Prime』より)
リンク先はABEMA TIMESというサイトの記事になります。