杉村春子の天才的演技に感化 「聴覚障害の役」やり遂げる 「名もなく貧しく美しく」(1961年)

杉村春子の天才的演技に感化 「聴覚障害の役」やり遂げる 「名もなく貧しく美しく」(1961年)

子役から脱皮して人生のイロハを覚えた高峰秀子は壁にぶち当たる。いいことばかりでなく、つらいことも当然あり、すっかりやる気をなくしていたが、「小島の春」(1940年)でのハンセン病患者を演じた大先輩・杉村春子の演技を見てショックを受けた。自分がいかにいい加減にやっていたかを猛省したという。

41年から足かけ3年かけて撮った山本嘉次郎監督の「馬」に主演したが、撮影主任を務めた黒澤明監督と恋に落ちるという大スキャンダラスもあった。それらは彼女にとってすべて芸の肥やしになったようだ。

54年に木下惠介監督の「二十四の瞳」で助監督だった松山善三と出会い結婚することに。当時も週刊誌のゴシップ好きは変わらない。そこで木下監督は先手を取ってマスコミ各社にふたりの婚約話を公表。55年3月、川口松太郎・三益愛子夫妻と木下の3人が仲人になって結婚式が執り行われた。

松山善三の監督デビュー作がこの「名もなく貧しく美しく」(61年)だ。ストーリーは実話にインスパイアされたもので、監督が有楽町のガード下の靴磨きを見て映画化を思いついたという。

秀子の役は子供時代の高熱で耳が聞こえなくなった秋子。耳が聞こえないから手話で語り、体の動きで演技しなければならない難しい役どころ。そこで、これまで杉村春子のような天才的な演技を見てきたことが生きてくる。秀子は夫の要求に応えて、見事にやり遂げた。

やはり秀子の圧倒的な演技力に脱帽する。差別問題を正面から扱い、後天的な障がい者の設定で会話が会話として成り立つか成り立たないか、その瀬戸際が注目に値する演技になっている。ふたりの手話が映画史に残る名ラブシーンになっている。卵が割れるシーンや電車のシーンがうまい。

追い打ちをかけるような展開には、残酷すぎるなど、さまざまな反対意見もあったが、救いのない典型的な悲劇の結末は仕方がないとうなずくファンのほうが圧倒的に多かった。

ふたを開ければ配給収入2億5154万円の大ヒット。キネマ旬報ベストテンで5位だった。手話普及に大きな足跡を残した映画でもある。 (望月苑巳)

■高峰秀子(たかみね・ひでこ) 女優、歌手、文筆家。1924年3月27日生まれ、北海道出身。2010年12月28日、肺がんのため86歳で死去した。愛称は「デコちゃん」。主な出演作品に「カルメン故郷に帰る」「二十四の瞳」「浮雲」など。夫は映画監督の松山善三。

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