2025/9/4 14:05
堀川 晶伸

人工内耳の利用者らに雑音下でもアナウンスの音声を届けるシステムのデモンストレーションを行う吉岡講師(右端)。参加者からは「クリアに聴こえる」など驚きの声があがった=8月30日、大阪市都島区(柿平博文撮影)
聴覚に障害がある人に駅や空港、病院などの公共空間で、雑音下でも必要な情報を伝える「補聴システム」の導入・普及を目指すプロジェクトを、東京工科大学メディア学部の吉岡英樹講師らがスタートさせた。システムは、Wi-Fiと専用アプリに加え、近距離無線通信「Bluetooth」(ブルートゥース)の新技術を利用する2つの方式を併用。欧米を中心に普及しつつあるが、国内では導入されておらず、体験会などを重ねながら、今年冬の実証実験を目指している。
吉岡講師によると、駅や空港、ホール、スタジアム、病院などの施設では、スピーカからのアナウンスで情報を伝達している。しかし、周囲の雑音などの影響で、聴覚に障害のある人には聞き取りにくい状況が多く、社会参加などを妨げる一因にもなっているという。
プロジェクトの名称は「Voices for All」で今年7月からスタートした。イスラエルの補聴システム会社「ベティア」が開発し、欧米を中心に広がりつつあるシステムをもとに、日本での導入や普及に向け、聴覚障害者の団体や言語聴覚士、音響機器メーカーとの意見交換や体験会を通じた検証を進めている。
システムは、Wi-Fiを使い、スマートフォンなどの専用アプリにアナウンスを配信。利用者は自分のスマホとペアリングさせた補聴器や人工内耳などでクリアな音声を聴くことができる。
また別にブルートゥースの新技術「Auracast」(オーラキャスト)も利用。ブルートゥースが「1対1」なのに対し「1対多」の接続が可能なため、ひとつの音源から、オーラキャストに対応する複数の補聴器や人工内耳などに、直接アナウンスを配信することができる。

さらにオーラキャスト対応のスマホと変換アプリを組み合わせれば、音声を字幕に変換して読むことも可能になる。
日本の公共施設などでアナウンスを伝える方法は、赤外線やFM方式などがあるが、今回のシステムは、設置コストや受信範囲などの面で、従来の方法よりもメリットが大きいという。
8月に大阪市内で行われた人工内耳の利用者らへの体験会では、「周囲が騒がしくても、音声がはっきり聴こえる」「自分で音量をコントロールすることで、隣の人と会話しながらアナウンスを聴くことができる」などの声があがった。
今後はコンサート会場での試験運用や、11月に開幕する聴覚障害者の国際スポーツ大会「東京デフリンピック」に合わせたイベントなど各地での体験会を予定。今年冬には音響機器メーカーの協力で、実際の駅や空港で緊急放送などを想定した実証実験を目指す。
国内で難聴を自覚している人は約3400万人とされ、今回のシステムの導入・普及は、こうした人の日常生活や社会参加を支援する取り組みとして期待される。
吉岡講師は「聴覚に障害がある人の社会参加を進めるためには、情報に容易にアクセスできる〝インフラ〟の整備が必要。プロジェクトを通じ実際の社会導入に向けたシステムの改良などに取り組んでいきたい」と話している。(堀川晶伸)
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