2025/11/11 17:00
聴覚障害者のスポーツの祭典「デフリンピック東京大会」(読売新聞協賛)に向けて、気軽に使える「ちょこっと手話」の動画を発信している姉妹がいる。生まれつき耳の聞こえない大学3年の平嶋萌宇さん(21)と、姉の沙帆さん(27)だ。キラキラした笑顔の2人に話を聞いてみた。「デフリンピックで手話が身近になりますか?」(デジタル編集部・反保真優)
インスタグラムで「手話と社会のマッチング」
「今日のちょこっと手話はこちら。手の『パー』を使って表現するスポーツを紹介します。(両手ぐるっと回して)『陸上』、(手でドリブルとシュートをするポーズで)『バスケットボール』……」

気軽にできる手話の動画を配信する平嶋姉妹(インスタグラムより)
インスタグラム「Land Hey」のアカウントで、2人が息ぴったりの手話を披露する。姉の沙帆さんは声と字幕も担当。2人が目指しているのは「聞こえない人にも聞こえる人にも伝わりやすい形」「手話と社会のマッチングをしたい」と手話を交えて教えてくれた。現在フォロワー数は1万2000人、再生回数39万回超えも達成している。
発信を始めたのは約3年前。きっかけは萌宇さんが高校時代に出場した手話のスピーチコンテストだった。手話にじっくり向き合い、他の出場者の手話を見て「手話は単なる『伝える手段』ではなく、多様な表現ができる奥深い、面白い言語だとを気づいたんです」。
自分の障害に対する考えも変わった。全国大会で特別賞を受賞し、「『聞こえなくてかわいそう』ではなく、手話を使えることは誇り」と思えた。だからこそ、「ポジティブな手話」を多くの人に広く伝えたいと感じたという。
沙帆さんもSNSでの発信に賛成。「自分には思いつかないことを、妹は手話と表情で表現している。彼女の明るさ、ありのままの姿を知って何か感じる人がいるはず」と沙帆さん。家族のコミュニケーション方法として簡単な手話や指文字を覚えていたが、活動を機に本格的に手話の勉強を始め、「毎日妹の厳しい指導で鍛えられています」と笑う。
スポーツの手話実況にも挑戦
昨春から萌宇さんは、全日本ろうあ連盟主催の「手話解説者実況講座」に通い、スポーツの実況にも挑戦している。ソフトバンクホークスや箱根駅伝などの観戦が好きで参加したが、自分の言語である手話でどう伝えるかを追求する面白さにさらに夢中になった。
手話実況は、聴覚障害者がスポーツをより深く楽しめるように、映像に手話や表情を加えてその場の温度感や興奮を届ける方法だ。

実況に挑戦した日本デフ陸上大会で記念撮影する平嶋姉妹=本人提供
「日本語には、言葉以外の声やトーン、遠回しな表現で『なんとなく』で意図を伝える特徴があるけれど、手話には『直接的につきつめて具体的に』表現する特性がある」と萌宇さん。たとえば、陸上のテレビ実況で「〇選手が、〇選手を追い抜きました」と話す際にも、手話では「前には〇人、後ろには〇人います」と手で表現する。サッカーの「イエローカード」は、手話では「ルール違反」と表すという。「瞬時に正確に、自分たちの文化にあわせて伝えることができる」と手話実況の意義を語る。
実際に、昨冬には日本デフ陸上大会の実況にも挑戦した。当日は緊張して同じ言葉を繰り返してしまうなど、反省点も多く見つかった。自分とは異なる年代の選手が使う手話や方言など、より多くの 語彙ごい と表現を増やすため、現在も練習中だ。
妹の豊かな手話に声をのせて
デフリンピックに向けては、バスケットボールの日程を選手と一緒に伝えたり、射撃の体験会に参加して発信したりと、選手との交流にも力を入れてきた。2人がイベントや試合を見て特に感じてきたのが、選手たちの表情の豊かさという。

姉の沙帆さん(左)と妹の萌宇さん
沙帆さんは、陸上競技のレースを間近で見たとき「レース中のぴりぴりした空気」から一転して、ゴール地点では「表情豊かな選手たちがアイコンタクトでお疲れさまと言い合っていたのが心に残っている」と振り返る。萌宇さんも「顔全体でお疲れさまと表現している姿は、言葉よりも伝わるものがあった」と話し、デフスポーツならではの面白さを教えてくれた。
大会中は、サッカーの応援サポーターを務めるほか、様々な競技場で選手の情報、試合の雰囲気を、手話を通じて届ける予定だ。姉の沙帆さんは「妹が持つ観察力や思いやり、あふれる表現力を、ずっと一番近くにいたからこそ伝えられると思う。手話に自分の声をのせて届けたい」、妹の萌宇さんは「大会開催がゴールではなく、共に生きる社会につながる希望となってほしい。より多くの方にスポーツの魅力のみならず、手話言語の温かさ、豊かさを伝えていきたい」と話している。
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