聴覚障害者の仕事をAIで支援 発声聞き分け端末に文字

聴覚障害者の仕事をAIで支援 発声聞き分け端末に文字

2025/06/24 05:00
#デフリンピック
#ろう者エトセトラ

アプリや機器開発進む

 聴覚障害者の仕事を支援するシステム開発が進んでいる。従来は難しかった聞き取りにくい発音でも、人工知能(AI)が認識して端末上で文字化できるようになり、聴覚障害者の社会参加を促している。(栗原守)

これなしでは

 「これなしでは生活できない。精神的にも楽で、数字の聞き間違いが減った」

音声認識アプリを使い、電話の通話や職員とのやりとりをする浅野さん(名古屋市中区で)

音声認識アプリを使い、電話の通話や職員とのやりとりをする浅野さん(名古屋市中区で)


 愛知中小企業家同友会事務局で働く難聴の浅野文さん(58)は、5年前から音声認識アプリを使っている。事務所内でのやりとりや、受話器から聞こえる声も端末上で文字化される。情報技術(IT)の進展で業務が円滑になっている。

 聴覚障害者の働き方を支援する音声認識アプリを開発する動きが、愛知県内で進んでいる。ブラザー工業(名古屋市)では、聞き取りにくいことが多いとされる聴覚障害者の声を、AIで聞き分けて文字化するシステムを実用化に向け開発中だ。聴覚障害者の声をAIに学習させて、対応する。

音声認識アプリを活用しながら職場で意思疎通をする鈴木さん(右)(名古屋市瑞穂区で)

音声認識アプリを活用しながら職場で意思疎通をする鈴木さん(右)(名古屋市瑞穂区で)


 社内で試験的に利用している聴覚障害のあるデザイナーの鈴木優人さん(45)は、「意思疎通が進み、効率的に仕事ができるようになった」と話す。

 1年以内に事業者向けの販売を目指すとしている。


150万ダウンロード


 5月初旬、愛知県刈谷市で開かれたバスケットボールのBリーグの試合会場で、観客席の一角に、タブレット端末に映る日本語字幕や絵文字を見つめる聴覚障害者の姿があった。

 端末には自動車部品メーカー、アイシン(愛知県刈谷市)が開発した音声認識のソフトウェア「YYシステム」が搭載されている。場内でDJが発する選手交代の情報を数秒遅れで表示できる。応援の合図はほぼ同時に表示され、一体感のある応援となった。

観客席でタブレット上の文字化された音声を見ながら、バスケットボールの試合を楽しむ来場者(手前)(愛知県刈谷市で)

観客席でタブレット上の文字化された音声を見ながら、バスケットボールの試合を楽しむ来場者(手前)(愛知県刈谷市で) 


 もともと、アイシンの工場などの職場で働く約300人の聴覚障害者が、やりがいをもって働けるように開発が始まった。今年5月にスマホなどのダウンロードは150万に達した。AIによる聴覚障害者の発声に対応した文字化機能も実証中だ。聴覚障害のあるシニアで構成するNPO法人「なせばなる」(岐阜市)の代表理事・加藤ゆかりさん(61)は「『YYシステム』を利用することで、あきらめていた聴者との議論ができるようになった」と喜ぶ。

 聴覚障害者のコミュニケーションは手話や口話(読唇)、筆談などがあるが、AIを活用した機器やソフトの開発は「発声による交流の壁」を越えようとする試みともいえる。11月に東京で開かれる聴覚障害者のスポーツの祭典「デフリンピック」(読売新聞社協賛)での活用も期待される。


社会的制約を軽減 


 音声を文字化して、聴覚障害者を支援する機器の開発は東海地方以外の企業も進めている。

 リコー(東京)は、障害のある人の職場などでの活用を目指し、音声認識ソフト「ペコ」を開発し、株主総会の発言の「見える化」など利用場面が広がっている。ピクシーダストテクノロジーズ社(東京)が開発したシステム「VUEVO(ビューボ)」は、8方向の音声を個別に認識し、文字化できる。20以上の言語での同時翻訳にも対応する。

 無料アプリから専用端末を用いた高機能な有料サービスまで、企業によって様々な商品が開発され、職場での会議録作成などにも使われている。

 ただ、ブラザーやアイシンのように、聴覚障害者の発声に対応した機能はまだ多くない。こうした取り組みの背景には、障害のある従業員への「合理的配慮」の考え方の広がりがある。

 障害者の社会参加に詳しい、東京大学バリアフリー推進オフィスの中津真美・特任助教は「企業の開発努力で聴覚障害者が直面する社会的制約を軽減し、教育や職場、日常生活における参加機会が増え、心理的安心感が高まっている」と話している。


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