2025.11.04
撮影・北尾 渉 イラストレーション・イオクサツキ 文・嶌 陽子 構成・堀越和幸
認知症にならない人は、認知機能の低下に抗う力=レジリエンスを備えているとされ、その能力は“認知予備能”と呼ばれています。今回は認知予備能を鍛える6つの生活習慣をご紹介します。

血圧、コレステロールの管理は40代から始める

「40〜60代に高血圧を放置しておくと、高齢期になった時に認知症になるリスクが2倍以上になります。また、50歳で総コレステロール値が高いと、20年後の認知症リスクがそうでない人と比べて3倍近くなるというデータも。血圧やコレステロールの管理は中年期から行うのが肝心なのです」。また糖尿病のある人も、アルツハイマー型認知症や血管性認知症を発症するリスクは糖尿病でない人と比べて2倍近い。「まだ若いからもう少し様子を見よう」などと考えて放置せず、治療や服薬、生活習慣の改善といった対策を今のうちから始めたい。
10種類以上の食品をとるように心がける

いろいろなものをバランスよく食べることは健康にいいと昔から言われていること。実際に多様な食品を摂取することが認知症のリスク低下にもつながることが明らかになっている。最近推奨されているのが、合計10種類の食品群をとること。10種類とは、肉、魚介類、卵、大豆や大豆製食品、牛乳・乳製品、緑黄色野菜、海藻類、いも、果物、油を使った料理だ。「また、血液中に含まれるたんぱく質のアルブミンが不足すると低栄養になり、認知機能低下のリスクが上がります。たんぱく質不足にならないよう、肉や魚、卵などをしっかりとることが大事です」
難聴の予防や対策をしっかり行う

難聴は認知症の重要なリスク因子の一つとされている。「難聴でない人の認知症発症リスクを1とした場合、中等度の難聴の人で3倍、高度の難聴の人で5倍近く認知症になるリスクが高まります。聞こえが悪くなると人との会話が面倒になったり、テレビやラジオの音が聞こえづらいために社会の出来事に無関心になったりすることも。孤立が認知機能の低下を招くのです」。ヘッドホンやイヤホンで大音量の音楽を聴くのを避けるといった難聴予防をするとともに、聞こえづらいと感じたら早めに専門医を受診して、補聴器などの対策をとるようにしたい。
積極的に社会との関わりを持つ

人との会話は、脳を大いに活性化させ、認知症を予防する。また、外出頻度が高い人ほど認知症の発症リスクが低いことも分かっている。「あるデータでは、近所付き合いが悪い夫婦と、近所付き合いがよい一人暮らしを比べると、夫婦のほうが要介護認定のリスクが高まることが明らかに。一人暮らしだと困った時に社会に助けを求めますが、夫婦が揃っていると二人の間で完結してしまいがち。つまり、日頃から積極的に社会との関わりを持つことが認知症の予防の鍵となるのです。一人暮らしでなくても、ご近所や友人との交流を深めるようにしましょう」
握力や歩幅を意識して筋力を鍛える

握力が弱い人ほど、認知症発症リスクが高いという研究がある。脳神経は手などを動かすことに関わっていて、握力が強いということはそれだけ脳神経を使っているということだからだ。また加齢に伴い筋力が落ちれば、歩幅が狭くなったり歩行速度が遅くなったりすることも。これらも認知機能低下のリスクにつながるので要注意。「ペットボトルの蓋が開けづらい、信号が赤になるまでに横断歩道を渡りきれないのは黄信号。筋力を鍛えましょう。普段でも最低限秒速80cmで歩くことや、日頃の歩幅よりもプラス5cmを意識して歩いてみてください」
週3回以上、1回30分の運動を

運動習慣がある人は、ない人に比べて認知症の発症リスクが下がるというデータが。週1回でも効果はあるが、週3回以上運動している人は、アルツハイマー型認知症のリスクが半分に。「運動強度によっても発症リスクに差が出ます。散歩より高く、競技スポーツより低いもの、たとえば軽いジョギングや水泳を趣味程度に行うのが最も効果的です」。また中年期に平均より痩せている人は、老年になって認知症を発症しにくい。逆に70歳以降になるとふくよかなほうが発症しにくくなる。

運動強度と認知症発症リスク Andel R,et al.J Gerontol A Biol Med Sci.63:62-66,2008
長田 乾 さん (ながた・けん)
横浜総合病院 臨床研究センター長
1978年、弘前大学医学部卒業。2016年より現職。専門は認知症、脳卒中など。著書に『認知症?と思ったら最初に読む本』など多数。
『クロワッサン』1152号より
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