聴力に問題はないのに、騒がしい場所や複数の人が同時に話すときなどに言葉の聞き取りが困難になる症状は、APD(聴覚情報処理障害)と呼ばれます。
治療法は確立されていませんが、周囲の理解を得て環境を整えることで、生活の質を上げることが出来ます。(松田祐哉)
脳の機能に主原因
APDは聴力検査では問題がないことがほとんどで、脳の機能に主な原因があると考えられています。
音が聞こえる仕組みはまず、空気の振動である音が耳の穴から入って、鼓膜を震わせます。
その振動が耳小骨で増幅され、耳の奥の 蝸牛かぎゅう で電気信号に変換されて、蝸牛神経を通って脳へと伝わるのです。
電気信号を受け取った脳では、注意を向けた音だけを大きくし、一時記憶をし、話の前後の文脈から意味を推測するなど複雑な情報処理を施すことで、私たちは言葉を聞き取り、理解することができるのです。
しかし、こうした脳の働きのどこかに偏りがあれば、言葉の聞き取りができなくなります。
原因はよくわかっていません。
ストレスや不安、悩みなどの心理的な要因などが引き起こすこともあると考えられています。
海外では、子どもの3~4%にAPDが見られるという報告があります。
APDがあると、社会生活で困ることが多いです。仕事の指示が聞き取れない、飲食店で複数人の会話がわからない、授業内容がわからない、電話を通した声を理解できないなどがよくあるケースです。
騒がしい場所や複数の人との会話で、聞き取りにくいというのが多くの人に共通しています。
専門家の診断大切
専門的な医療機関での診断が大切です。
日本医療研究開発機構(AMED)によるAPD研究の公式ウェブサイトには、診断ができる医療機関の一覧もあり、受診先選びの参考になります。
問診で症状を聞き取り、聴力検査で異常がないかを調べます。さらに詳しい検査では、両方の耳で、異なる言葉を聞き、両耳にバランスよく注意を向けられるか、早口で読み上げた言葉を聞き取れるかなどを調べます。
発達や心理面の検査も重要です。診断を受ければ、環境を整えたり、機器を利用したりして対処することができます。
職場や学校では具体的に聞き取りにくい状況や配慮してほしい点を伝えることが重要です。
機器では、補聴器やノイズキャンセリング機能のついたイヤホンが役立つこともあります。
話し手の送信機(マイク)と聞く側の受信機を組み合わせた補聴援助システムもあります。
最近では当事者や保護者らが集まる「APD当事者会APS」が積極的に情報発信しています。
悩みがある時は一人で抱え込まず、こうした会に参加することも考えてみてください。
大阪公立大耳鼻咽喉病態学准教授の阪本浩一さんは「診断は自分のことを知る第一歩になります。
どうして聞こえの問題が起きているのか、得意不得意は何かなど状態が分かれば、対処方法を考え、周囲の人に必要な配慮を求めることもできます。
悩んでいる若い人や親子はぜひ受診してほしいです」と話しています。
リンク先はYomiDr.というサイトの記事になります。