「津波フラッグ」振ったり、掲げたりして避難呼びかけたが…課題は認知度「知らない」81・6%

「津波フラッグ」振ったり、掲げたりして避難呼びかけたが…課題は認知度「知らない」81・6%


津波フラッグを手にする小玉さん。7月の津波注意報発表時には、フラッグを振って避難を呼びかけた(8月19日、宮崎市青島で)=中村直人撮影

津波フラッグを手にする小玉さん。7月の津波注意報発表時には、フラッグを振って避難を呼びかけた(8月19日、宮崎市青島で)=中村直人撮影


 7月30日に発生したロシア・カムチャツカ半島沖の地震では国内各地に津波警報・注意報が出され、海水浴場などで、津波の危険を視覚的に伝える「津波フラッグ」が活用された。2011年の東日本大震災を教訓に国がデザインを定めたが、「避難の合図」としての認知度は低迷。専門家は周知を進め、津波防災への意識を高める必要があると訴える。(中村直人)

7月30日朝、観光名所の宮崎市青島の海には30~50人のサーファーがいた。宮崎県に津波注意報が出ると、ライフセーバーらがサイレンを鳴らしたり、津波フラッグを振ったりして、避難を呼びかけた。旗は同31日に注意報が解除されるまで浜辺に掲揚した。

 監視業務などを担う青島ビーチセンター「 渚なぎさ の交番」は、日向灘を震源とする最大震度6弱の地震が起きた昨年8月にも、津波フラッグを活用した。小玉 順規まさき センター長(52)は「海の中にいると揺れを感じないこともある。一刻も早く逃げるには、様々な方法で伝えることが必要だ」と語る。


「赤白の格子」色覚に障害ある人にも配慮

 津波フラッグ導入の背景には、東日本大震災の被災3県(岩手、宮城、福島)で聴覚に障害がある人の死亡率が、障害のない人の2倍に上ったとの報告などがある。以前はサイレンや防災行政無線など「音」による伝達が中心で、避難情報などが通知されるスマートフォンが手元にない遊泳中は特に、避難が遅れる恐れがあった。

 旗を使う手段は一部の自治体で行われていたものの、色や柄は統一されていなかった。そこで気象庁は19年に有識者らによる検討会を設置。実地調査の結果も加味し、色覚に障害がある人も見やすい四角形を四分割した「赤白の格子」の案が採用され、気象業務法の施行規則などを改正した20年6月から運用が始まった。

 船舶間の通信で「貴船の進路に危険あり」を意味する国際信号旗「U旗」と同じ模様で、外国人にも理解されやすい利点もある。今年6月末現在、海水浴場のある全国の396市区町村のうち、導入率は79%(314市区町村)に上る。

 導入が広がる一方、認知度不足が課題だ。気象庁が昨年11月、全国の男女2000人に行ったアンケート調査では、津波フラッグを「知らない」と回答した割合が81・6%に上り、意味を含めて理解している人は4%にとどまった。

 各地では周知や有効活用を図る取り組みが進む。福岡管区気象台は、福岡、北九州両市の海水浴場のほか、福岡県立福岡高等聴覚特別支援学校(福岡市)で、津波フラッグを使った避難訓練を行ってきた。


「知っていることが自分の命を守るツールになる」


 大分県ライフセービング協会は、子ども向けの自然体験教室などで津波フラッグの意味を伝えている。尾田智史理事長(49)は、東日本大震災で被災した岩手県山田町で行方不明者の捜索活動にあたった経験があり、「知っていることが自分の命を守るツールになる」と力を込める。

 観光名所・江の島がある神奈川県藤沢市は、縦5メートル、横7メートルの巨大な津波フラッグを沿岸部の施設4か所に配布し、緊急時には海に向かって掲げてもらう仕組みを整えた。沖縄県与那原町の長田純一さん(52)は、津波フラッグと同じ柄のタオル(縦70センチ、横120センチ)を作って販売しており、「自身の避難が最優先だが、いつものタオルを置き換えるだけで誰でも旗振り役になれる」と話す。

 東京大の田中淳特任教授(災害情報論)は「避難訓練や学校教育の場で使い、浸透を図ることは、『津波に気づく』だけでなく、『津波災害を忘れない』ことにもつながり、意義がある」と話している。


リンク先は讀賣新聞オンラインというサイトの記事になります。


 

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