25/10/27まで
眠れない貴女へ
放送日:2025/10/19
言語聴覚士で自身も一側性難聴(片耳難聴)の岡野由実さんに、中学2年生で片耳が聞こえなくなったころのこと、お母様が100%味方になってくれて落ち込まずに済んだこと、そして、言語聴覚士としての仕事や片耳難聴の研究において自身の体験が強みになっていること、さらには、当事者団体を立ち上げた経緯など、興味深いお話を伺いました。
【出演者】
岡野:岡野由実さん(ゲスト)
村山:村山由佳さん(ご案内)

岡野由実さん
【岡野由実さんのプロフィール】
1984年、東京都生まれ。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。群馬パース大学リハビリテーション学部言語聴覚学科准教授。13歳のときに突発性難聴で片耳を失聴。その経験から、話すこと、聞くこと、食べることに障害のある方を支援するリハビリ専門職である言語聴覚士を志し、現在は聴覚専門の言語聴覚士として、主に耳鼻科の病院などで子どもの聴力検査や、補聴器の調整、言葉の発達を促す訓練の支援などを行う。朝の連続テレビ小説「半分、青い。」では主人公が片耳難聴という設定だったことから撮影に関するレクチャーを担当。2019年、片耳難聴の当事者団体である「きこいろ」を立ち上げ、片耳難聴に関するさまざまな啓発活動を行っている。
母が100%味方でいてくれたことが大きかった

村山由佳さん
村山:
まずは岡野さんに、ご自身が言語聴覚士をされている強み、そしてご自身が片耳難聴になってしまった時の経験についてお聞きしました。
岡野:
言語聴覚士の仕事をする中で、私自身も片耳難聴の当事者であるっていうことが強みになっているなあって思う部分もあって。ご自身の子どもが難聴の診断を受けた親御さん達って、すごくショックを受けていたりとか、すごく落ち込んでいたりとか、自分のこと以上に自分の子どものことってすごく深く悩んだりすることってあると思うんですけれども、その中で、当事者としての経験だったりとか、当事者としての思いだったりとか、私自身が母にしてもらってうれしかった話だったりとか、助言ができたりお伝えできたりするっていうことは強みなのかな、と思ったりして。自分の難聴もいかせる仕事に就けているというところが、この言語聴覚士っていう仕事が自分にとっては天職なのかな、なんていうふうに思ったりしています。
私自身、中学2年生で(片耳が)突然聞こえなくなって、聞こえなくなった時には、なんかずっと飛行機に乗っている時のような耳が詰まった感じがずっと抜けなくて、私自身も気づいて。中学2年生という多感な時期にさぞかしショックを受けたんじゃないでしょうか、っていうことをよく聞かれるんですけれども、私自身そんなに落ち込んだりそんなにショックを受けたり辛かったっていうことが、思い返すとそんなになかったと感じていて。
私の母がきちんと私の難聴を受け止めて、しっかりといろんな情報を収集して、それを包み隠さず私にちゃんと話してくれたことがすごく大きかったのかなって思います。中学生ぐらいの時期なので、私がクラスの中で「え?」って聞き返した時に「もういいよ」って周りから諦められてしまったりとか「あんた、難聴なんじゃないの?」っていう、「難聴なんだけどな」と思いながら、心ない言葉をかけられたこともあったはあったんですけれども、それを家で母に話すと「そんなこと言ってくるのは友達じゃないんだから別に付き合わなくていいのよ」ぐらい、聞こえない私ではなくて、それを理解しない周りの友達の方が悪いんだからあんたは悪くない、って100%味方でいてくれたことが、私にとってはすごく大きかったのかなって思います。
ただ、やっぱり診断を受けた時の医師の言葉が今でも忘れられなくて、「もう治りません。でも片方聞こえてるから日常生活には問題ないです。」ってはっきりと言い切られたことが、なんでこの人は両耳聞こえる人なのに問題ないって言い切れるんだろうっていう、そこに対する怒りが今の私の活動の原動力になってるかなって思います。
村山:
お子さんたちの難聴に関わるお仕事をなさっていく上で、お母さんたちお父さんたちが、本当につらい思いをするっていうのは、きっとそうなんだと思うんです、自分のことよりつらいっていうのが。でもこうしてご自分とお母さんの関係性、100%味方についてくれたから私はそこまでつらくないって思えたということをご自身の経験として伝えられるっていうのは、お母さんたちにとって大きいですよね。自分もそういうふうにあろうって思うし、そうして乗り越えていけるって思いますものね。
周りからはわかりづらい片耳難聴の困りごと
村山:
片耳難聴についてご説明しますと、原因はさまざまあるそうで、発症時期も生まれつきのこともあれば、後天的に病気になって片耳難聴になるということもあり、また難聴の程度もさまざまなんだそうです。有名なところでは、大人になってから突発性難聴で片耳が聞こえなくなるっていうケースが年々増加しているという報告もあったりするそうなのですが、治る方もいれば、少しだけ回復する、あるいは回復しない方もいて、治療の経過も人によってさまざまなんだそうです。片耳難聴にはどんな困りごとがあるのでしょうか。
岡野:
普段静かなところで会話をする分には、聞こえてる方の耳で聞いてお話ししてというのができるので、いつもずっと困ることが続いてるというわけではないんですが、両耳が聞こえてることで得られる効果が得られなくなることで聞こえづらさが生じるのが片耳難聴なのかなと思います。具体的には理論上3つの場面で聞こえにくくなると言われているんですが、1つめが難聴側から話しかけられたとき、2つめが周りがガヤガヤしているところで会話をしなければいけないとき、3つめがどこから音がするのかということを聞き分けるとき。
一番困るのが、ガヤガヤするところで会話をする時っていうのは本当に聞こえづらくなるんですが、人間って両方の耳が聞こえていると、周りのガヤガヤした雑音っていうのをかき消して、聞き取りたい音にフォーカスを当てて聞くことができるんですが、それが片方の耳が聞こえなくなってしまう、聞こえづらくなってしまうと、聞き取りたい音も、周りのガヤガヤした音も同じように耳に入ってきてしまい、すごく聞き取りづらくなる。で、聞こえる方に場所を移動してみたりとか、話している人の口元を見て、こう言ってるのかな? って一生懸命考えてみるとか、いろんなことをしてみるんですけれども限界があって。なので聞くのを諦めてしまったり、今はちょっと会話に入るのをやめようって思うこともあるのかなって。例えばよくあるところでは、飲み会の席だったりとか、パーティー会場だったり工場の中で聞かなきゃいけないとか、そういう雑音の中で聞き取るっていうのは結構大変な場面だったりするかなって思います。
なかなか私たちの片耳難聴って、両耳聞こえてる人からするとすごくわかりにくいのかなって思うんですね。さっきまで静かなところで会話している時には問題なくコミュニケーションが取れてたのに、途端ちょっと周りがガヤガヤし始めたりとか、一瞬車が通り過ぎたりすると、「え、何?」っていうふうに聞き返して、聞いてない人とかやる気がない人とか、逆に、本当にこの人聞こえてないんだろうかって信じてもらえなかったりとか、そういう周りに理解されないことで非常に悩んでいる片耳難聴の当事者の方たちも少なからずいるのかなって思います。まずは正しく片耳難聴について知ってもらえたらなっていうことと、例えば今ガヤガヤしてるから聞こえづらいだろうなっていうことを察して、後で静かになったところでコソコソっと教えてくれたりとか、どっちの席に座ろうかなっていう場面になった時に、こっち座る? って聞こえる側を譲ってもらえたりすると、私たち当事者としては、もうその人のことを大好きになると思います。
村山:
言ってもらわないとわからないことってたくさんありますね。でも「言ってもらわないとわからない」ってずっとこちらが受け身でいると、自分が知らないことすら知らないっていう状況が生まれてきてしまうから、こうして岡野さんが発信してくださることは本当にありがたいと思います。もしかしたら私の知り合いにも、リスナーさんたちの知り合いにも、そうとはわからないんだけども、その人は言わないんだけども、実は片耳が聞こえないっていう方だってたくさんいらっしゃるんじゃないかなって思うんですよね。外から見てる分にはあまりわからないので私たちも気づきにくいんですけど、こうして少しずつでも教えていただくと、世間をというか、世界を見る目が変わりますね。
片耳難聴の当事者団体「きこいろ」の活動とは
村山:
大学の頃から片耳難聴について研究活動を行ってきた岡野さんですが、片耳難聴の本人たちが自分の難聴についての情報を得る機会がなかなかないことを課題に感じていました。そんな時、岡野さんの論文を読んだ、同じく片耳難聴の当事者である麻野美和さんから誘いを受け、2019年に片耳難聴を持つ人の当事者組織「きこいろ」を立ち上げました。その「きこいろ」の活動についてお聞きしました。
岡野:
最初は、片耳難聴について発信をしている人たちに片っ端からSNS伝いで声をかけていったっていうようなところで仲間集めをしていて、今は十数人のプロジェクトメンバーと、全国に800人ぐらいの会員が参加しています。
活動方針として3つの柱を掲げていて、まず1つめが当事者どうしの交流の場をつくるということ。2つめが片耳難聴についての情報を届ける、発信するということ。3つめが社会に対して片耳難聴を啓発していくということ。
最初の当事者どうしの交流というところでは、なかなか日常生活の中で自分以外の片耳難聴の人と出会ったことがないっていう方、すごく多いんじゃないかなと思うんですけれども、意外と片方の耳が聞こえない人って世の中にはたくさんいて、そういう人どうしで自分の悩みだったりとか自分の経験だったりとか、自分の趣味だったりとかを語り合うことで「自分一人じゃないんだな」って思ってもらうきっかけになってもらえばと思っています。それで定期的に「片耳難聴カフェ」という当事者どうしが話し合いができるようなオンラインだったりとか対面だったりのイベントを開催してます。
2つめの情報発信というところでは、片耳難聴に特化した情報がこれまでなかなかまとまってなかったっていうところもあって、両耳の難聴とは違うところであったりとか、片耳の難聴だからこそっていうところとか、そういう情報をSNSだったりウェブサイトで発信することをしています。
3つめが啓発活動ということで、私たちの活動を知ってもらうきっかけっていうのは、身近に片耳難聴の方がいるとか、自分自身が片耳難聴だっていう方がほとんどなんですが、やっぱり広く社会に知ってもらうことで、私たち片耳難聴者もちょっとした理解だったりちょっとした配慮があるだけですごく生きやすくなる、生活しやすくなる部分っていうのは多いと思いますので、非当事者に向けての啓発の活動にも力を入れて頑張っていきたいなと思っています。
番組からのメッセージ
♪ 「治らないけれども、日常生活には支障がない」という医師の言葉への反発が今の活動の原動力になっているという岡野さん。日常生活にまったく支障がないわけではないし、症状も聞こえ方もさまざまで、人それぞれにできることはいろいろあるし、あきらめる必要はないので、当事者どうしで情報交換をしたり、周囲の理解を啓発する「きこいろ」の活動を細くても長く続けていきたいとおっしゃっていました。
♪ この番組は、らじる★らじるの聴き逃しでお楽しみいただけます!
放送後1週間お聴きいただけますので、ぜひご利用ください。
放送を聴く25/10/27まで
♪ 番組では皆さんのおたよりをお待ちしています。
10月のテーマは「博物館」です。食欲の秋、そして文化の秋。最近ではさまざまな種類の博物館がありますが、皆さんの「博物館」にまつわるエピソードをリクエスト曲とともにお寄せください。

眠れない貴女へ
NHK-FM 毎週日曜 午後11時30分
【放送】
2025/10/19 「眠れない貴女へ」
リンク先はNHKというサイトの記事になります。
