深層リポート
2025/2/1 08:00
小川 寛太 ライフ|くらし

バスケットボールの試合を観戦する聴覚障害者ら。目の前のモニターには「LiveTalk」で変換された文字が映し出された=神奈川県平塚市(小川寛太撮影)
誰もがスポーツ観戦を楽しめる環境づくりを、神奈川県が県内のスポーツチームなどと連携して進めている。障害者でも最新技術を使うなどして、健常者と一体となって応援できるようにする取り組みだ。今秋には東京で聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」が国内初開催となるなど障害者スポーツの注目が高まる中、スポーツ観戦でも健常者と障害者の垣根をなくし、共生社会の実現につなげていく。
ろう学校がバスケットボール観戦
1月18日にトッケイセキュリティ平塚総合体育館(同県平塚市)で行われた女子バスケットボール、Wリーグの富士通-ENEOS。両チームを応援するファンらで客席が埋め尽くされた一戦は、富士通が最大11点差をつけられた状況から驚異の追い上げを見せ、残り5秒を切ってから逆転シュートで勝利を収めた。
客席の一角には、会場の近くにある平塚ろう学校に通う生徒らの姿があった。障害者のスポーツ観戦を支援する実証事業を今年度から進めている同県などの支援で、今回の観戦が実現した。
手拍子を体感
聴覚に障害がある人は、応援の音が聞こえなかったり聞き取りづらいことで周囲の盛り上がりに加われないなどのハードルがあった。問題を解消するのは、富士通が開発した「LiveTalk(ライブトーク)」と「Ontenna(オンテナ)」だ。

富士通が開発した「LiveTalk」で変換された文字がモニターに表示され、試合観戦をサポートした=神奈川県平塚市(同社提供)
ライブトークは会話を音声認識し、リアルタイムで文字に変換する。この日は富士通の元選手が話す試合の解説やルール説明などが、すぐさまモニターに表示された。オンテナは、音を256段階の振動や光に変換し、身につけることで音の特徴を体で感じることができる。生徒らは髪の毛に装着するなどして、応援の手拍子などスポーツ観戦ならではの音を体感した。

初めて生で観戦したという18歳の男子生徒は「ありがたかった。ますます感動できるのではないかと思う」と笑顔を見せ、2度目の観戦だった18歳の女子生徒は「スポーツの解説が文字で見られて、試合の内容がわかりやすくてよかった。(観戦支援が)あった方が安心できる」と喜んだ。
サッカーの試合でも観戦支援
同県では、平成28年に知的障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市)で入所者ら45人が殺傷された事件を受け、「ともに生きる社会かながわ憲章」を制定するなどした。共生社会の実現に向けて積極的に取り組んでおり、昨年11月にもサッカーの試合で聴覚障害者の観戦支援を行うなどしてきた。
取り組みは、スポーツを通じて社会課題の解決などを進める「かながわスポーツ・プラットフォーム」で、県内のプロスポーツチームやスポーツに関心がある企業などに情報共有していく方針。県の担当者は「障害やスポーツの種類によっても違いがあるので、試行錯誤しながらやっていきたい。最終的には障害者も垣根なくスポーツ観戦できることが当然になれば」と展望を示す。
今年11月には、国内初となるデフリンピックが東京を中心に開催される。令和3年の東京五輪・パラリンピック以降、障害者スポーツへの注目が高まりを見せる中、障害者が「する」ことだけでなく、「みる」ことでもスポーツとの距離を縮め、ともに生きる社会の構築を進めていく。
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デフリンピック 聴覚障害者の国際スポーツ大会で、「ろう者の五輪」とも呼ばれる。原則4年に1度開かれ、今回が日本初開催。11月15~26日の12日間、東京都を中心に21競技が行われ、70~80カ国・地域から選手約3000人の参加が見込まれる。夏季大会は大正13年のパリ大会が第1回で、今回が25回目。大会名は、耳が不自由なことを表す英語の「デフ」と「オリンピック」を掛け合わせた造語。
記者の独り言 試合を観戦する平塚ろう学校の生徒らは、会場と一体となって白熱の大逆転劇を見守った。スポーツについては「する」だけでなく「みる」「支える」という関わり方がある。パラリンピックやデフリンピックなどで障害者が「する」ことへの注目度は高まった。「みる」ことが容易になれば、障害者とスポーツとの距離はさらに近づくだろう。(小川寛太)
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